米自動車大手(ビッグスリー)の一角、というより3社のうちの万年3位のクライスラーが経営破綻した。昔、自動車担当だったころ、デトロイトの本社に取材にいったことがある。80年代前半だからもう20年以上前のことだ。当時の同社はリー・アイアコッカ氏が会長で、経営危機に陥っていた同社をどうにか再建したカリスマ経営者として有名になったころ。結局、アイアコッカ氏にインタビューすることはできなかったが、副社長に会って取材をすることができた。何を聞いたかもう忘れたが、会長の経営手腕を褒めていたことは覚えている。
このアイアコッカ会長という人は、フォードで伝説的な名車「マスタング」の開発者で、社長となったが、オーナー会長のフォード2世とけんかして辞め、クライスラーにこわれて入った。フォード時代の政治人脈を生かして、政府資金の獲得に成功し、経営を軌道に乗せることに成功した。なんといってもアイアコッカ会長の特色は、日本車排撃の急先鋒だったことだ。「日本車は太平洋に追い落としてやる」とことあるごとに息巻いていた。性能はさほどでもないのに、円安ドル高を利用して米国内でダンピング(不当廉売)していると非を鳴らした。
ああそれなのに、デトロイトで聞いた話では、アイアコッカ会長の最愛の娘の20歳の誕生日に贈った「最高のプレゼント」が三菱自動車のスポーツカー「スタリオン」だった。三菱とは提携関係にあったとはいえ、日本車排撃の張本人の本音はまったく違ったのだ。記事にすればアイアコッカ氏の政治的立場が極めて悪くなるということで、書かないことを条件に聞かせてもらったお話。
経営危機を救った中興の祖ともいわれたが、アイアコッカ氏が去った後もクライスラーは、特に発展するでもなく、自動車の需要増に助けられてどうにか生きてきたというのが実像だ。世界自動車再編のなかでは独ダイムラー・ベンツと合併して生き残りを図ったり、そのダイムラーに離縁されて投資ファンドに助けを求めたりと、本筋の商品=クルマで勝負することもなく、あえなくダウンとなった。中興の祖がつくった体質なのか、米国製造業の体質なのか。
仮に政府援助で再建が成るとしても、フィアットの傘下に入るにしても、ことここに至った体質が変わらない限り、またいつか同じ道をたどることになるのではないか。


by ansund-59
クライスラーの想い出